―本誌ライターの小山内さんによる、コラム「オタク学」。「オタク的な分野×社会学」というテーマのコラム、第40回です。
角川書店といえば、『ガンダム』『マクロス』『エヴァンゲリオン』『涼宮ハルヒ』など、強力なブランド力を持つコンテンツを多数有する出版社だ。さらにそれらを出版だけでなく、アニメ・小説・ゲームなど、様々な媒体でメディアミックスしていく手法にも定評がある。
そんな角川書店の代表取締役社長を務める井上伸一郎さんが、漫画研究家・藤本由香里さんと、「東京都青少年健全育成条例」について、『ガンダム』専門の漫画雑誌『月刊ガンダムエース』の最新号(4月号)で対談している。
タイトルは「乱暴すぎない?都条例!!」というものだ。
■創作に不可欠な「やってはいけないこと」の描写を、そこのみを切り取って解釈されてしまう危険性
記事では今回の条例が一旦否決されながらも、一部内容を変更した上で異例の早さで可決されてしまったことや、出版各社が「東京国際アニメフェア」への出展を取り止めた経緯なども、2ページの中でコンパクトにまとめられている。
井上さんはアニメ情報誌『Newtype』や、漫画雑誌『少年エース』の編集長なども務めてきた。
そうした現場の経験を踏まえ、例えば強姦した人間に対し誰かが復讐するストーリーを描く場合、事の始まりから終わりまでの「起承転結」を描かなければならないが、「起」のみ(この場合強姦シーン)を取り上げられて「これは強姦を賛美・誇張している」ととられてしまう危険性について語っている。
■「事前検閲があったほうが進んだ社会」という誤解が広まっている!?
藤本さんは、出版業界が基本的に「表現の規制はやるべきではない」という意識が強い業界である、ということを指摘している。アニメやゲームの業界からすると、
「俺達はこんなに自主規制をやっているのに、どうして出版のヤツらは」
と思われがちなほどだと言うのだ。その上で今回の条例を発端とする、出版業界にも漂う「自主規制」のムードに危機感を抱いている。
「膨大なマニュアルを用意して、「事前に全てを自主的に検閲していく」というスタイルが洗練されていて、できるだけ表現規制をしないというスタイルが遅れているかというと、それは絶対に違う」
「けれど、事前検閲によるレーティングこそが進んだ社会だと思っている人は実際に増えている。これが一番危険」
表現の自由は、憲法によって全ての国民に保障されている自由権だ。今回の都条例改正問題は、人々が自ら自由や権利を放棄し、事前に決められたルールに従う方向に流されようとする、「自由からの逃走」という近代特有の病も含んでいる、と考えるのは言い過ぎだろうか。
(小山内)
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(参考リンク)
『アニメ コンテンツ エキスポ』開催に関するお知らせ
小山内 聡(おさない そう)
漫画とアニメとゲームが好きで軍事オタクの文系大学生。趣味はノンフィクションを読むこと。はてなダイアリー『日の丸海賊団』で書評を書いています。
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